[概要]
宇宙から突然強力な電波信号がやってくる謎の現象が今大きな注目を集めている。これは「高速電波バースト」と呼ばれ、毎日何千回も起こっているにも関わらず、過去十年以上にわたってその正体がわかっていない天文学上の未解決問題である。この電波信号が一瞬のうちに消えてしまうことが一因である。はたして宇宙人がそのような電波信号を送っているのだろうか。台湾国立清華大学天文所研究員の橋本哲也を含む研究チームは謎の高速電波バーストの正体を突き止める有力な証拠を初めて発見した。高速電波バーストは宇宙人からではなく宇宙の天体から来ている事が明らかになった。
[宇宙から来る謎の電波信号]
高速電波バーストは、宇宙から突然強力な電波信号がやってくる現象である (図1)。高速電波バーストは毎日何千回も起こっているにもかからわず、いまだその正体はあきらかになっていない。この電波信号がわずか千分の一秒のうちに消えてしまう事が一因である。興味深い事に、二種類の高速電波バーストが報告されている。一つは「単発型」でこれは同じ場所から一回だけ電波信号がやってくるケースである。もう一つは「リピート型」で同じ場所から複数回の電波信号がやってくるケースである。これまで、この謎の電波信号は宇宙人から送られてきたものだとする説も提案された。そのため、高速電波バーストの正体を解明する事は10年以上にわたって天文学の最重要課題であるだけでなく、多くの市民の関心も引きつけてきた (図2)。
[新しいアイデア]
これまでの研究では高速電波バーストの発生場所を特定してその正体を調べようとしたが、この方法は一例を除きうまくいかなかった。本研究では視点を変えて、高速電波バーストの歴史に着目した。高速電波バーストの歴史はその正体に迫る重要な手がかりを与えてくれる。例えば「すでにある程度発展した国の多くでは人口増加が緩やかであるのに対して今発展している国の多くでは人口が急激に増加している」という事に似ている。研究チームは単発型が過去およそ100 億年にわたってほぼ一定の割合で起こっている事を初めて明らかにした。これとは対照的に、リピート型は約100 億年前には現在の値に比べ、およそ10 倍も多かった事がわかった。これらの傾向は白色矮星やマグネターといった宇宙の天体の傾向と非常によく一致している。白色矮星は軽い星がその最期を迎える時に残る天体で、マグネターは中性子星の中でも特別に強力な磁場をもった天体である。
[新発見]
研究チームは初めて高速電波バーストの起源を強く制限する事に成功した。単発型の高速電波バーストは白色矮星他、リピート型はマグネター他を起源としている事が明らかになった (図3)。これは10年以上にわたる天文学の最重要課題と多くの市民の長年の疑問を解き明かした画期的な発見である。幸か不幸か、高速電波バーストは宇宙人によって送られた信号ではない事が明らかになった。
本研究は2021年春季日本天文学会のプレスリリースに選定されました。 本研究によって台湾科技部 (MOST) が台湾博士後研究員最優秀論文賞2020を研究チームに授与しました。 研究内容は Hashimoto et al. 2020 として英国王立天文学会月報, 498巻, 3号, ページ 3927-3945に掲載されました。
https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2020MNRAS.498.3927H/abstract https://academic.oup.com/mnras/article/498/3/3927/5894390
またこの研究は国立清華大学天文所の橋本哲也とその共同研究者である後藤友嗣、Alvina Y. L. On、Ting-Yi Lu、Daryl Joe D. Santos、Simon C.-C. Ho、Seong Jin Kim、Ting-Wen Wang、Tiger Y.-Y. Hsiao (敬称略) によって行われ、オーストラリアの Parkes 並びにカナダの CHIME 電波望遠鏡で得られたデータが用いられました。
プレスリリースをサポートして下さった国立清華大学の Dengsung Lin 教授、Holly 氏、Catherine 氏、Yi Hang Valerie Wong 氏、Huang 氏、Phoebe Kao 氏と同大学天文所のメンバーに感謝いたします。
高解像度画像は以下のリンクからダウンロードできます。
Non-repeating FRB
Repeating FRB
White dwarf
Magnetar
Multiple languages are available at the following links.
English
http://w3.phys.nthu.edu.tw/~tetsuya/press_release/20210315/
中文
http://w3.phys.nthu.edu.tw/~tetsuya/ja/press_release/20210315_cn/
日本語
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