宇宙史における高速電波バーストの数密度

高速電波バーストの想像図。 Image credit: [Daniëlle Futselaar/ASTRON/HST]

高速電波バーストはミリ秒という短い時間に起こる謎の電波パルスで、その多くが遠方の銀河からやってきている事がわかっています。 その正体を突き止める事は天文学における重要な課題の一つになっています。 高速電波バーストの正体を明らかにする最も信頼性の高い方法として、空の上で精密にバーストの位置を測定し、その場所で起源天体を探査するという方法があります。 ところがこの方法ではミリ秒という短い時間に起こるバーストを検出し、それと同時に場所の測定も行わなければならず、観測的に困難です。 この問題を解決する新しい方法が待ち望まれていました。

この問題を解決すべく、私は宇宙史における高速電波バーストの数密度の進化に注目しました。 もし高速電波バーストが「若い天体種族」を起源とするのであれば、高速電波バーストの数密度はおよそ100億年前の宇宙 (つまり遠方宇宙) では現在に比べ約10倍も多かったはずです。 なぜなら、若い天体種族 (マグネターや若いパルサー、超新星残骸等)の数密度は、宇宙の星形成の歴史に比例して、100億年前は約10倍高かったからです。 あるいは、高速電波バーストの数密度は、宇宙の星質量の歴史に比例して、100億年前の宇宙 (遠方宇宙) では今よりもずっと低かったかもしれません。 この場合、高速電波バーストは白色矮星、古いパルサー、星質量ブラックホールといった「古い天体種族」を起源とすることになります。 これは宇宙の星質量のほとんどが古い天体種族によって決まっているからです。 この方法は精密な場所の測定を必要とせず、しかも統計的な観点から高速電波バーストの起源を明らかにします。

図: 宇宙史における高速電波バーストの数密度の進化 (赤星)。これは単発型高速電波バーストの数密度を宇宙の時間 (ルックバックタイム) の関数で表したものです。より長いルックバックタイムはより昔の宇宙、つまりより遠方の宇宙に対応しています。単発型高速電波バーストの数密度 (赤星) は昔 (遠方) に行くほど減少し、その減少の加減は宇宙の星質量の歴史 (黄線) に良く似ている事がわかりました。これは単発型の高速電波バーストが、白色矮星や古いパルサー、星質量ブラックホール等の古い天体種族を起源とする事を意味しています。
図: 宇宙史における高速電波バーストの数密度の進化 (赤星)。これは単発型高速電波バーストの数密度を宇宙の時間 (ルックバックタイム) の関数で表したものです。より長いルックバックタイムはより昔の宇宙、つまりより遠方の宇宙に対応しています。単発型高速電波バーストの数密度 (赤星) は昔 (遠方) に行くほど減少し、その減少の加減は宇宙の星質量の歴史 (黄線) に良く似ている事がわかりました。これは単発型の高速電波バーストが、白色矮星や古いパルサー、星質量ブラックホール等の古い天体種族を起源とする事を意味しています。

私は最近リリースされた CHIME による新しい高速電波バースト から、均質なサンプルを選びました。 これは過去の研究よりも約10倍も大きなサンプルです。 図に示してあるように、単発型高速電波バーストの数密度 (赤星) が過去に遡るほど (遠方宇宙にいくほど) 有意に減少している事を明らかにしました。 この減少の加減は宇宙の星質量の歴史 (黄線) に良く似ていて、星形成の歴史 (青線) とは相容れない事がわかりました。 単発型高速電波バーストについての若い天体種族を起源とする説は 99% 以上の有意性で棄却されました。 これらの結果は単発型高速電波バーストが白色矮星や古いパルサー、星質量ブラックホール等の古い天体種族を起源とする事を意味しています。

これらの内容は英国王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) に掲載されました。

Tetsuya Hashimoto, Tomotsugu Goto, Bo Han Chen, Simon C.-C. Ho, Tiger Y.-Y. Hsiao, Yi Hang Valerie Wong, Alvina Y. L. On, Seong Jin Kim, Ece Kilerci-Eser, Kai-Chun Huang, Daryl Joe D. Santos, and Shotaro Yamasaki, 'Energy functions of fast radio bursts derived from the first CHIME/FRB catalogue' , accepted for publication in Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, (2022).

橋本哲也
橋本哲也
助教 (NCHU)