ガンマ線バーストの謎

(ロング) ガンマ線バーストは宇宙でもっとも激しい謎の爆発現象です。太陽が100億年かけて放つエネルギーをガンマ線バーストは僅か数秒の間に解放します。その正体は一体何なのでしょうか。

私はすばる望遠鏡を用い、ガンマ線バースト母銀河 (バーストの起こった銀河) を同定しました (図1)。 私は詳細な追観測を行い、その重元素量(ヘリウムよりも重い元素の量)がガンマ線バーストの標準的な理論モデルの予想よりもはるかに高い事を発見しました。 ガンマ線バーストの標準的なモデルでは、大質量星が超新星爆発を起こし、その過程で高速なジェットが生成される事によってガンマ線バーストが起こると考えられています。 このジェットを生成するためには重元素量が非常に少なくなければなりません。 なぜガンマ線バーストは重元素量の高い銀河でも起こるのか、私の発見はガンマ線バーストの新たな謎を生む事になりました。

「重元素量」から「元素組成へ」

この重元素量の謎を解くために、私はガンマ線バースト母銀河における酸素と鉄元素の量、言わば「元素組成」探査のフロンティアを切り開きました。 これまでの研究では測定の容易な酸素元素が重元素量の指標として用いられ、鉄と酸素の違いについては、観測的には誰も注目してきませんでした。 それは鉄元素が出す輝線が非常に弱く、その測定が困難であるせいです。 すばるや他の大型望遠鏡によって初めてこの問題に取り組む事が可能になりました (図2)。 私は、ガンマ線バースト母銀河では酸素元素量が高い場合においても鉄元素の量はいつも非常に低い事を初めて発見しました。 星の進化理論によれば鉄元素が高い場合、大質量星はガンマ線バーストのジェットを生成するだけの回転力を失ってしまうと考えられています。 これまで一般的に用いられてきた酸素元素量は実は良い指標ではなく、ガンマ線バーストは大質量の超新星爆発の中でも特に鉄元素の低い場合にのみ起こることを初めて観測的に明らかにしました。

これらの内容は英国王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society)、米国アストロフィジカルジャーナル誌 (The Astrophysical Journal)、並びに天文学会月報 EUREKA に掲載されました。

Tetsuya Hashimoto, Ravi Chaudhary, Kouji Ohta, Tomotsugu Goto, Francois Hammer, Albert K. H. Kong, Ken'ichi Nomoto, and Jirong Mao, 'Why Are Some Gamma-Ray Bursts Hosted by Oxygen-rich Galaxies?' , The Astrophysical Journal, Volume 863:95 (14pp), (2018) August 10.

Hashimoto, Tetsuya; Perley, Daniel A.; Ohta, Kouji; Aoki, Kentaro; Tanaka, Ichi; Niino, Yuu; Yabe, Kiyoto; Kawai, Nobuyuki , 'THE STAR FORMATION RATE AND METALLICITY OF THE HOST GALAXY OF THE DARK GRB 080325 AT z = 1.78' , The Astrophysical Journal, 806:250 (9pp), (2015) June 20.

T. Hashimoto, K. Ohta, K. Aoki, I. Tanaka, K. Yabe, N. Kawai, W. Aoki, H. Furusawa, T. Hattori, M. Iye, K. S. Kawabata, N. Kobayashi, Y. Komiyama, G. Kosugi, Y. Minowa, Y. Mizumoto, Y. Niino, K. Nomoto, J. Noumaru, R. Ogasawara, T.-S. Pyo, T. Sakamoto, K. Sekiguchi, Y. Shirasaki, M. Suzuki, A. Tajitsu, T. Takata, T. Tamagawa, H. Terada, T. Totani, J. Watanabe, T. Yamada and A. Yoshida, '''Dark'' GRB 080325 in a Dusty Massive Galaxy at z ~ 2' , The Astrophysical Journal, 719:378-384, (2010) August 10.

Tetsuya Hashimoto and Ohta Kouji, 'The origin of a dark gamma-ray burst observed with Subaru' , EUREKA, the astronomical herald, the astronomical society of Japan, (2011), p.193-200, Apr.