謎の青い銀河団

図1: 近傍宇宙における典型的な銀河団のメンバー銀河。その多くは「赤い」銀河で構成されています。青い銀河と赤い銀河はそれぞれ青丸と赤丸で表示されています。

銀河はその星形成活動を停止する事によって、青い星形成銀河から赤い楕円銀河へと進化する事が知られています。 この「青」から「赤」への遷移は銀河団環境でより促進されると考えられています。 その結果、近傍宇宙における銀河団のメンバー銀河はその多くが「赤い銀河」で構成されています (図1)。 大きな銀河団においては銀河団中の青い銀河の割合は通常わずか20%程度しかありません。

私は、星形成銀河の割合が異常に高い謎の「青い銀河団」(図2) を近傍宇宙で発見しました。 この青い銀河団は非常に重いダークマターハロー (2 x 10^14 Msun) に属しているにもかかわらず、青い銀河の割合は 0.57 にも達しています。 この割合は全く同じ選択基準で選ばれた他の銀河団よりも 4 シグマも高いことがわかりました。 銀河進化の標準的な理論モデルと比較した場合には 4.7 シグマもの開きがあります。 このような銀河を発見する確率はわずか0.003%しかありません。

図2: 謎の青い銀河団のメンバー銀河。なぜかその多くは「青い」銀河で構成されています。青い銀河と赤い銀河はそれぞれ青丸と赤丸で表示されています。
図2: 謎の青い銀河団のメンバー銀河。なぜかその多くは「青い」銀河で構成されています。青い銀河と赤い銀河はそれぞれ青丸と赤丸で表示されています。

この青い銀河団の周辺銀河の分布は巨大なフィラメント状の構造を示していることがわかりました (図3)。 このようなフィラメント構造に沿って冷たいガスの降着、いわゆる “Cold streams” が重い銀河団の中においても存在していることが示唆されます。 ところが銀河形成のシミュレーション結果によれば、このような Cold streams は近傍宇宙の重い銀河団ではすでに消え去っている事が予言されています。 青い銀河団の存在は、現在の標準的な銀河形成の枠組みでは説明できず、まだ我々の知らない未知のメカニズムが働いているのかもしれません。

図3: 青い銀河団と同じ赤方偏移 (+-1000 km s^-1)にある周辺銀河の空間分布。等高線は銀河の数密度を表していて、青い線は過去の研究で同定されたフィラメント構造です。拡大図における破線は青い銀河団の半径(ビリアル半径)を表しています。
図3: 青い銀河団と同じ赤方偏移 (+-1000 km s^-1)にある周辺銀河の空間分布。等高線は銀河の数密度を表していて、青い線は過去の研究で同定されたフィラメント構造です。拡大図における破線は青い銀河団の半径(ビリアル半径)を表しています。
この研究によって私は国際研究会 「Future Science with Multi-Wavelength Data」で最優秀口頭発表賞を受賞しました。

これらの内容は英国王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) に掲載されました。

Tetsuya Hashimoto, Tomotsugu Goto, Rieko Momose, Chien-Chang Ho, Ryu Makiya, Chia-Ying Chiang, and Seong Jin Kim, 'A young galaxy cluster in the old Universe' , Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, (2019).

橋本哲也
橋本哲也
助教 (NCHU)