高速電波バーストの正体

Image credit: [ESO/L. Calçada]

高速電波バーストは非常に短い時間スケール(ミリ秒)で起こる電波帯域の突発天体です。 そのほとんどは系外銀河から来ており、観測的に「単発型」と「リピート型」の二種類が存在する事がわかっています。 最近、リピート型の高速電波バースト源が銀河系内のマグネター (SGR 1935+2154) から来ている事が確認されました 。 しかしながらこの一つのケースを除いた残り99%以上については、それらが何なのか全く分かっていません。

この問題を解決するために私は、高速電波バーストの数密度を使った統計的手法を用いました。

図: 高速電波バーストの(単位時間あたり)数密度とルックバックタイム(あるいは赤方偏移)の関係。図中右に行くほど遠方宇宙、あるいは過去の宇宙にさかのぼる事になります。高速電波バーストは大きな星印、その他の突発天体現象は他のマーカーで示されています。色のついた太線はそれぞれ、宇宙の星質量密度 (オレンジ色), 星形成率密度 (青色), 並びに超巨大ブラックホールへの質量降着率密度 (灰色) を表しています。 図(a) と (b) はそれぞれ単発型とリピート型を示しています。 1 Gyr = 10億年。
図: 高速電波バーストの(単位時間あたり)数密度とルックバックタイム(あるいは赤方偏移)の関係。図中右に行くほど遠方宇宙、あるいは過去の宇宙にさかのぼる事になります。高速電波バーストは大きな星印、その他の突発天体現象は他のマーカーで示されています。色のついた太線はそれぞれ、宇宙の星質量密度 (オレンジ色), 星形成率密度 (青色), 並びに超巨大ブラックホールへの質量降着率密度 (灰色) を表しています。 図(a) と (b) はそれぞれ単発型とリピート型を示しています。 1 Gyr = 10億年。

私は、単発型の高速電波バーストの(単位時間あたり)数密度が過去~100億年にわたってほぼ一定である事を初めて明らかにしました(図a: 赤色の星)。 このほぼ一定の数密度は宇宙の星質量密度の進化と一致しています。 宇宙の星質量は~10億年の時間スケールをもつ非常に古い種族からの寄与が大半を占めています。 単発型の高速電波バーストは古い天体種族、つまり、白色矮星や中性子星、(星質量程度の)ブラックホールを起源とする事が強く示唆されます。

一方、リピート型の数密度は遠方宇宙に行くほど(過去へさかのぼるほど)むしろ増える事がわかりました。 この増加する傾向は、宇宙の星形成率密度、あるいは超巨大ブラックホールへの質量降着率密度(いわゆる活動銀河核の活動性の指標)の増加と一致しています。 リピート型高速電波バーストは単発型とは対照的に、短い時間スケール(~100万年)を持った (i)若い種族の天体かあるいはその残骸 (超新星残骸、若いパルサー、マグネター)、あるいは (ii)活動銀河核を起源とする事が示唆されます。

これらの内容は英国王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) に掲載されました。

Tetsuya Hashimoto, Tomotsugu Goto, Alvina Y. L. On, Ting-Yi Lu, Daryl Joe D. Santos, Simon C.-C. Ho, Seong Jin Kim, Ting-Wen Wang, and Tiger Y.-Y. Hsiao, 'No redshift evolution of non-repeating fast radio-burst rates' , Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, Volume 498, Issue 3, pp.3927-3945, (2020).

この論文は2021年3月15日の日本天文学会記者発表に選定されました。 また、台湾科技部 (the Ministry of Science and Technology) がこの論文に 台湾博士後研究員最優秀論文賞2020 を授与しました。

この論文は NTHU 秘書處新聞稿 , しんぶん赤旗 , TUN大學網 , 產經新聞 , AstroArts , 産経新聞 , INQUIRER.net , NewsPicks , The NTHU newsletter で特集されました。

橋本哲也
橋本哲也
助教 (NCHU)