高速電波バーストが紐解く宇宙再電離

Image credit: [Roen Kelly/Discover magazine]

宇宙は過去に中性状態から電離状態に遷移した事がわかっています。この「再電離」の時期に宇宙の状態が劇的に変化しており、それがどのようにして起こったのかを明らかにする事は天文学における大きな課題のひとつです。 宇宙の歴史の中で最初に出現した星や銀河がこの宇宙再電離を起こしたと考えられています。 近年、宇宙背景放射の観測からこの再電離の平均的な時期が赤方偏移8付近(現在の宇宙年齢138億年に対して、宇宙年齢がわずか6億年だった頃)であることがわかりました。 また、遠方のクエーサーやガンマ線バーストの観測からこの再電離は赤方偏移6(宇宙年齢9億年)には完了している事もわかっています。 しかしながら、この再電離が赤方偏移の関数として具体的にどのように起こったのかはいまだに謎のままです。

この謎を明らかにするために、私は「高速電波バースト」を用いて宇宙再電離を明らかにする新しい方法を提案しました。 高速電波バーストは電波波長で非常に明るい電波パルスで、遠くの銀河からやってきている事がわかっています。 高速電波バーストには「Dispersion measure」と呼ばれるユニークな観測量があります。 これは銀河間空間にある電離物質の量に起因する観測量です。 そのため宇宙再電離を調べるための良い道具として高速電波バーストを用いる事ができます。 私はこの「Dispersion measure」を赤方偏移に対して微分した測定量(dDM/dz)を用いる事を提案しました。 このdDM/dzは銀河間物質の電離度に比例します。 そのためこの新しい方法を用いることで、宇宙再電離の歴史を赤方偏移の関数として直接測定する事ができます(図)。 近い将来、次世代大型電波望遠鏡(Square Kilometre Array)が大量の高速電波バーストを発見すると見込まれています。 シミュレーションの結果、将来大量に発見される高速電波バーストと私の方法を組み合わせる事によって、宇宙再電離が詳細に解明されると期待されます (図)。

図: 銀河間物質の電離度と赤方偏移の関係。私の方法を用いて将来測定される見込みの観測データは点と丸で示されています。シミュレーションで仮定した再電離の歴史は線で示されています。上中下パネルは異なる再電離の歴史を仮定した場合を示しています。左から右のパネルは高速電波バーストの赤方偏移の見積りについて異なる場合を想定した時の結果です。どの場合でもシミュレーションで仮定した再電離の歴史は私の方法と将来の高速電波バーストを組み合わせる事によって正しく再現される事を示しています。
図: 銀河間物質の電離度と赤方偏移の関係。私の方法を用いて将来測定される見込みの観測データは点と丸で示されています。シミュレーションで仮定した再電離の歴史は線で示されています。上中下パネルは異なる再電離の歴史を仮定した場合を示しています。左から右のパネルは高速電波バーストの赤方偏移の見積りについて異なる場合を想定した時の結果です。どの場合でもシミュレーションで仮定した再電離の歴史は私の方法と将来の高速電波バーストを組み合わせる事によって正しく再現される事を示しています。

これらの内容は英国王立天文学会月報 (Monthly Notices of the Royal Astronomical Society) に掲載されました。

Tetsuya Hashimoto, Tomotsugu Goto, Ting-Yi Lu, Alvina Y. L. On, Daryl Joe D. Santos, Seong Jin Kim, Ece Kilerci Eser, Simon C.-C. Ho, Tiger Y.-Y. Hsiao, and Leo Y.-W. Lin, 'Revealing the cosmic reionisation history with fast radio bursts in the era of Square Kilometre Array' , accepted for publication in Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, (2021). この論文によって国際研究会'NEP conference 2020: Multi-Wavelength Astronomy Collaboration towards the New Era with Deep Survey Data (2020)'で最優秀口頭発表賞を受賞しました。

橋本哲也
橋本哲也
助教 (NCHU)