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問い合わせ先:
後藤友嗣 (日本学術振興会特別研究員SPD, ハワイ大学天文学研究所所属)
Institute for Astronomy, University of Hawaii
2680 Woodlawn Drive, Honolulu, HI, 96822
電話:+1-(808)-956-0982,
携帯:+1-(808)-255-6301,
Fax:+1-(808)-956-2901
Email:tomo@ifa.hawaii.edu





すばる望遠鏡128億光年彼方に宇宙最遠方の超巨大ブ ラックホールホスト銀河を発見。



ハワイ大学の後藤友嗣研究員らは宇宙最遠方超巨大ブラックホールの周りに、これを取り巻く巨大銀河を発見しました。
巨大銀河は地球から128億光年の彼方にありながら、天の川銀河と同じ程度の大きさで、
太陽の十億倍もの質量をもつ超巨大ブラックホールを中心に持っています。

後藤友嗣研究員(ハワイ大学)は、「宇宙の年齢がわずか現在の1/16だった時代に巨大銀河が存在して
太陽の10億倍もの質量の超巨大ブラックホールを持っていたことは驚くべき事実だ。
巨大銀河とブラックホールは宇宙初期に急激に進化したに違いない。」と話しています。


超巨大ブラックホールを詳しく調査することは、天文学の長年の課題であったブラックホール-銀河共進化
を理解する上で重要です。しかし明るいブラックホールからの光が暗いホスト銀河を隠してしまうため、
これまではブラックホールを中心に持った銀河を研究することは大変困難でした。


星が死ぬときにできる小さいブラックホールとは違い、超巨大ブラックホールの起源は未だ謎に包まれています。
現在有力な理論によれば、いくつかの中間質量ブラックホールの合体により超巨大ブラックホールが生まれるとされています。
今回発見されたホスト銀河はそのような中間質量ブラックホールの存在する場所でもあると考えられます。
形成後超巨大ブラックホールは周囲の物質を巨大な重力によって飲み込みながら成長を続け、
この過程で重力エネルギーが解放されることによって、超巨大ブラックホールは非常に明るく輝きます。


超巨大ブラックホール観測のため、宮崎聡准教授(国立天文台)が率いるグループによってすばる望遠鏡主焦点カメラに
新しく感度の良いCCDが備え付けられました。宮崎准教授は「CCDの感度向上によって早速画期的な成果がもたらされた。」と話しています。


カラーの詳細な解析により、9100Å付近の光は、40%がホスト銀河からであり、60%がホストを取り巻く電離ガス雲からであることもわかりました。
ガス雲は超巨大ブラックホールによって電離されたと考えられます。
データ解析に力を発揮した内海洋輔氏(総研大)は、「我々は超巨大ブラックホールとホスト銀河が一緒に形成している現場をまさに目撃した。
この研究を皮切りに宇宙初期における超巨大ブラックホールとホスト銀河の進化がより詳細に解き明かされるだろう。」と語っています。


本研究成果はイギリスの科学誌、Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
に掲載されることが決定しています。論文は以下の場所にあります。
http://www.ifa.hawaii.edu/~tomo/QSOhost/QSOhost_v7.pdf


後藤友嗣 :日本学術振興会のSPD特別研究員。2003年東京大学理学博士。
ハワイ大学マノア校にて、David Sanders教授と共に超巨大ブラックホール及び、
超光度赤外線銀河に関して研究を行っている。



図1: 宇宙最遠方超巨大ブラックホール (CFHQSJ2329-0301)の3色合成図。
中央の白い部分がブラックホールで、それを取り巻く赤い部分がホスト銀河を示している。

他のフォーマットはこちら、 in gif, png, tif.
キャプションなしの図はこちら, in gif, png, tif.






図2: 注意深く中央のブラックホールからの光をモデルを使い(中央)差し引いた結果、
右のパネルに残ったのがホスト銀河からの光。ホスト銀河は天空上直径4秒もの大きさをもっており、
128億光年の彼方では22kpc(72,000 光年)もの大きさを持っていることになる。


図2キャプションありの図はこちら、 gif, png, tif. なしはこちら、  gif, png, tif.


研究チーム:
後藤友嗣 (日本学術振興会 SPD特別研究員, ハワイ大学天文学研究所所属)

内海洋輔(総合学術研究大学院大学/国立天文台)
古澤久徳(
国立天文台)
宮崎聡
国立天文台)
小宮山裕国立天文台)





天体名: CFHQSJ2329-0301

注:ブラックホールは、光さえも放出しない暗黒の天体ですので、望遠鏡で直接見ることはできません。しかし、物質 (ガス)が、ブラックホールの重力によって引き寄せられると、重力エネルギー (位置エネルギーとも呼ばれる)を失い、非常に高速運動するようになります。そして、ガスどうしの激しい衝突、摩擦の結果、ガスは非常に高温になり、紫外 線から可視光線にかけて、非常に強い放射が放たれます。

注:超巨大ブラックホールによる重力に引き付けられて、より多くの物質が落ち込むほど、超巨大ブラックホールはより活動的になり、より明るく輝きます。し かし、明るい放射は、外向きの輻射圧として働くため、さらなる物質の落ち込みを妨げます。ある質量の超巨大ブラックホールの周囲に、単純な球対称(薄い球 殻)の物質分布を仮定した場合、輻射圧に逆らって、重力によって落ち込むことのできる物質の最大量を計算でき、その結果、超巨大ブラックホールの最大光度 も予想できます。この最大光度をエディントン光度と呼び、この仮定をすれば、観測された明るさから、超巨大ブラックホールの質量を推定できます。

注:1Å (オングストローム) は 1 ミリメートルの 1000 万分の 1 の長さです。

注:1秒は1度の3600分の1の角度です。